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40 覚醒のマネジメント

人を動かす30の原則

 カチョーの役割、すなわちマネジメントは、わが身の満足を追うのではなく、ブカを動かすことなのである。ではブカを動かすにはどのような手があるのか。30ばかりのやり方があるのではないか、と親切に案内してくれたのがディール・カーネギーという人である。人を動かす3原則、人に好かれる6原則、人を説得する12原則、人を変える9原則と、総計30原則をまとめて『人を動かす』(原題は『How to Win Friends and Influence People』)という本にまとめた。一九三七年に売り出されたこの本は空前のベストセラーとなり、いまや世界中でロングセラーを続けている。

立志伝中の人

 大学卒業後に、様々な職業を経てトラック販売をしていたカーネギーは、ゴキブリが出没する安い部屋に住み惨めな気持でいた。自分の仕事を軽蔑していたのだ。これが人生のすべてだろうか。そう悩んで人生の立て直しにかかった彼は、YMCAで話し方の授業を始めた。彼の自伝『道は拓ける』はそうした話から始まっている。カーネギーは立志伝中の人なのである。

ふたりのカーネギー

 ちなみに、ディール・カーネギーと鋼鉄王アンドリュー・カーネギーは、親戚ではない。ニューヨークのカーネギーホールで知られているのはアンドリューの方である。二人は縁もゆかりもないが、立志伝中の人という点は共通している。しかも不思議な因縁もある。鋼鉄王アンドリューは、あるとき自分を訪ねた新聞記者に、万人に通用する成功の秘訣を探ったらどうだと持ちかけた。ちょうどディール・カーネギーが、自分の人生の方向転換をした年の頃だった。この勧めをまともに受けて、粒々辛苦、成功哲学を完成させた新聞記者がナポレオン・ヒルである。その後ヒルはディール・カーネギーとともに成功哲学の2大潮流となった。

おのれを語らず

 この二人の業績には、徹底した取材を元にしている、という共通項がある。ヒルは成功した企業家に取材し、カーネギーはYMCAの生徒たちに取材した。この二人の著作や教材が、世界で長く愛用されてきたのはこのためだろう。とくにカーネギーは立志伝中の人であるにもかかわらず、自分の信条、信念を語るのではなく、生徒たちが心を動かすわけを深く多様に探って「人を動かす」原則を見出した点が出色だ。

ドン・ドラッカー

 マネジメントの泰斗ドラッカーには、その名も『マネジメント』という労作がある。その他にもドラッカーには大部の著作が多くあり、これらを難解だというカチョーもいる。それはドラッカーを読んでいないからである。読めばこれほど親切丁寧、分かりやすい本はないのだ。経営学のドンの中のドンであるドラッカーもまた、徹底取材の人であった。広く取材をして仮説を立て、集中して取材をして仮説を修正補強し、さらに取材をして著作に人の匂いを織り込んだ。

マネジメントを学ぶゆりかご

 ということで、マネジメントの核心とは、カチョーの信条信念の中にではなく、ブカの気持の中にあるということがわかる。説得ではなく納得を得ることが肝心なのだ。説得とは語り手の行為である。納得とは聞き手の行為である。強い説得にひれ伏すブカはいても、納得するブカはいない。説得力は概して人を動かさず、こわばらせるものだ。ということで、納得を得るための教室として推奨したいのは家庭であり、教材にしたいのは家族への働きかけである。娘を、息子を、伴侶を、両親を動かすには何が必要なのか。そこに思いを致せば、長年培った知恵の多さにわれながら驚き入るだろう。一粒の涙や相手のために割いたわずかな時間が、思いもかけない納得を引き出したことはなかったか。家庭や親戚の法事や町内会の寄合は、おしなべてマネジメントの核心を学ぶよい教室なのである。