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53 ひき出す支配

寝坊の矯正

 朝寝坊の子供を、早起きさせるコツはないだろうか。ある。今日は遠足という日、子供は朝早くから自然に目を覚ましているではないか。起きたその先に楽しみがあることが、早起きを促すのだ。家族の朝の行事、洗面やトイレの競い合い、朝食の用意、食卓、新聞のニュース、食事の後かたづけ、そのような中にいる楽しみを、そのような中にあって果たす役割を、子供の楽しみにさせることはできないか。友だち付き合いを大事にさせ、友だちと一緒に学校に通う楽しみを、友だちに会いに学校へ急ぐ楽しみを、早起きの動機にさせることはできないか。こう考えるのが、ひき出す支配である。

ひき出す支配の方法

 ひき出す支配とは、相手を喜びの影響下に置き、自らの喜びによって、自らを支配させる方法である。したがって、ひき出す支配には、喜びのインセンティブが不可欠である。もし喜びがなくなれば、ひき出す支配はたちまちのうちに崩壊する。恋する相手がいるうちは、輝くばかりにめかし込んでいたのに、恋する相手がいなくなったり、恋する喜びを感じなくなったりしたときに、恋によって支えられていた輝きも、めかし込みも、崩壊するのと同様である。

ひき出す支配の組織価値

 ひき出す支配は、創造を価値とする組織に有効である、と言いたいところだ。しかし本当を言えば、脅迫によってなされた大発明や大発見もある。それを思えば、ひき出す支配と創造性との関係は幻想である。すなわち、ひき出す支配を本当に必要としているのは、組織ではなく、そこに働く人間の方なのである。その人間に対して、ひき出す支配をすれば生産性が高くなると実証されれば、ひき出す支配が組織価値と交わることになる。つけ込む支配は企業によって価値生成されるが、ひき出す支配は人によって価値生成される。もともと出自が異なるのである。

ひき出す支配の生命力

 ひき出す支配の生命力は、どのような喜びを補給し続けるかにかかっている。昇給、昇格、賞与、表彰などは、強い喜びをひき出すが、腹持ちしないために、支配の賞味期限がすぐにきてしまう。したがって、喜びの補給アイテムが少ないパート、アルバイト相手には、五円、十円単位でこまめに昇給をしたり、職級を何十も作ったりし、腹持ちしない弱点を補う手法も開発されている。しかしもちろん、効果的なのは腹持ちの良い喜びを与えることである。腹持ちの良い喜びとは、評価である。評価とはいっても、評価システムや、評価項目や、表や、紙のことではない。褒めたり認めたりする言葉であり、態度である。褒めることを枕にして注意したり、認めることを担保にして過負荷に追い込んだり、という手段的なものではなく、ひたすらそれを褒め、それを認める言葉と態度である。

ひき出す支配の支配力

 相手を自らの喜びの影響下に置き、自らの喜びによって自らを支配させるという方法は、相手によって個別に対応する必要があり、バッチ処理には向かない。したがって、企業社会全体をカバーするには至らぬだろう。しかし一方で、つけ込む支配に呼応しない新世代が生まれていることも確かである。カチョーの激減は、バッチ処理カチョーの激減にイコールしてはいないだろうか。