tomorrow

01 セレブレーション

 セルウッドの町のスーパーマーケット、〈New Seasons〉で買物をしていたら、調子の高い声が店内放送で流れ、一斉に、ウオッ、というような歓声が上がった。お客と店員の拍手に、ピーピーピーの口笛が混ざった。レジのあたりで、ふざけた調子で感謝状が読み上げられた。一人の女性店員が、それを手にしてうれしそうに笑っていた。周りのみんなも笑っていた。この店で10年勤続した彼女を祝ったお祭り騒ぎだった。お店の外では、ホームレスが笑っていた。

new seasons

 〈New Seasons Market〉にはよく通った。店員はどこででも、お客と楽しそうに話をしている。レジに並ぶと必ず話しかけてくるので、ボクはそれがちょっと苦手なのだが、あるとき、セルウッドの町の分かりやすい地図がないだろうか、と店員にたずねた。店員は「ちょっと待って」と言ってバックヤードに引っ込んだ。そして急いで描きあげた地図を持ってきた。数ブロック先にある図書館への案内だ。「図書館に行けば、セルウッドの地図がタダでもらえるよ」

 またあるときボクは、〈New Seasons〉のアウトテーブルでサンドイッチを食べていた。そこにガラガラと大きな音を立てて、ビンやカンをお店のカートに満載した、ふたりのホームレスがやってきた。彼らが店内に入ってウォーターサーバーから水を汲んで飲んでいると、近くの店員がすぐに声をかけてきた。店員とホームレスは一緒に外に出て、ビンとカンを大袋に仕分けながら、カウンター器でカウントを始めた。その間も三人のおしゃべりは止まらない。

 〈New Seasons〉での小さな目撃は、たまたまの「いい話」かも知れないけれど、「いい話」が二つ三つ重ねれば、その裏には大したことがたくさん隠れているものだ。

 たとえばこんなことだ。お店が小型なのに、店員がたくさんいるのだ。店員が多ければ、お客の世話もやけるし、ホームレスの相手もできるだろう。けれども、商売としては成り立つのだろうか。〈Oregonian〉という地元新聞のウェブサイトが、〈New Seasons〉は最近、時給を15ドルに引き上げた、と報じていた。時給引き上げをリードする会社のひとつであることも。いつも店員がご機嫌で溌剌としているのは、そのせいだろうか。でも、人件費はまかなえるのだろうか。陳列棚にはコーラ類が売られていない。すべてがオーガニックというわけではないけれど、商品が棚に並ぶためのハードルは高そうだ。持続可能性の仕組みに乗った商品に傾斜しているようだ。経営は成り立つのだろうか。

 こんな店で、10年勤続の店員を祝って、店員と、お客と、ホームレスたちとが、お祭り騒ぎをしているのだった。脳天気な言い方をすれば、店内ではマドンナの〈Celebration〉が聞こえたような。いや、たしかに、誰かが歌い出していたのではないかな。

 I think you wanna come over
 Yeah, heard it through the grapevine

 こっちへ来てよ
 あんたのことは聞いてたから

 Are you drunk or you sober?
 Think about it
 Doesn’t matter

 酔ってるとか、しらふとか
 そんなことは
 どうでもいい

 And if it makes you feel good then I say do it
 I don’t know what you’re waiting for

 気分が乗ったなら始めて
 待ってることなんてないわ

 マドンナがそう優しく歌いかけている。

 Boy you got a reputation
 but you’re gonna have to prove it

 あんたは評判ね
 だけどそれを証明しなけりゃね

 忍耐強く、気弱な男の子を引き立てようとする女の子のセリフだけど、マドンナが自身に言い聞かせていることかも知れない。もうこれ以上飛べないのではないかと立ちすくむ自分を、「あともう少し」と励ますようにも聞こえる。

 And if it makes you feel good then I say do it
 I don’t know what you’re waiting for

 気分が乗ったなら始めて
 待ってることなんてないわ

 どんな小さな一歩でも、踏み出せればそれは奇跡だし、なし遂げられればもっと奇跡だ。だからそんなときにはいつでも、Celebration(お祝い)があっていい、マドンナはそう歌っていた、かも知れない。だいぶ歌詞を端折って紹介したけれど。

new seasons

 照れくさそうにしていた女性店員は、「待って、待って」と言いながら、胸を押さえて短い挨拶をしていた。ゆっくり話すひと言ひと言に、小さな歓声や口笛が続いた。〈New Seasons〉の女性店員の手にあったのは、表彰状ではなく、感謝状だった。

・この連載の英文和訳は〈グーグル翻訳〉の助けを借りています。
・Photo/MariY2017

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