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一燈を提げた男たち

一燈を提げた男たち

小島直紀 新潮文庫

▶小島直紀は金、地位、名声よりも信念に殉じた男たちに熱いまなざしを向け続けた作家だった。

▶1970年代の中盤、『財界』編集長だった飯塚昭男が財界を退社して『選択』を創刊した。いまでは珍しくないが、直販で読者を限定し、その購読料を原資に各界リーダー向けに質の高い情報を提供しようと考えた。この困難を選んだ飯塚の志に小島は共鳴した。そして創刊号から「古典からのめっせいじ」の連載を引き受けた。

▶連載は後に『出世を急がぬ男たち』『回り道を選んだ男たち』『逆境を愛する男たち』などのシリーズとして文庫化された。本書もそのひとつだが、現在Kindle本になっているのは『出世を急がぬ男たち』だけ。

▶だが『一燈を提げた男たち』には、小島の思いが凝縮されていたようだ。この書名は佐藤一斎が著した『言志四録』(4つの著作の総称)にある「一燈(いっとう)を提(ひつさ)げて、暗夜(あんや)を行く。暗夜を憂ふる勿(なか)れ、只(ただ)一燈を頼め」からとったもので、小島自身も佐藤一斎に深く傾倒し、『私の『言志四録』 人生を読む旅』を著しているくらいだ。小島の著述を貫く気概は、一斎先生の一燈に導かれたものだとも言える。

▶西郷隆盛は『言志四録』一一三三条から一〇一条を選び、『南州手抄言志録』として残した。タイトル通りの手書きメモで、いつもこれを携帯していたという。西郷の手書きメモは後に出版され、その冒頭に勝海舟が詩を献じている。〈青空文庫〉で原文が入手できる。

▶幕末から明治にかけての為政者たちの多くが『言志四録』をバイブルとしており、その水脈が平成の国会で教育関連法案の論議中に再び表出した。時の小泉首相が教育の意義として「少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば、則ち老いて衰えず。老いて学べば、則ち死して朽ちず」を引用し、一斎先生ブームが平成に再燃した。小島直紀はそれに先駆けて、昭和の時代にこの水脈を守っていたとも言える。

登場元〈快適カチョー生活辞典 04 鈴木真砂女〉

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