nozomunの幻想都市紀行

1 セレブレーション

〈Sellwood〉のスーパーマーケット、〈New Seasons Market〉で買物をしているときだった。調子の高い声が店内放送で流れ、一斉に、ウオッ、というような歓声が上がった。そしてお客と店員の拍手。ピーピーピーの口笛。

勤続10年の表彰

レジのあたりで、ふざけた調子で感謝状が読み上げられた。一人の女性店員がそれを手にして見入りながらうれしそうに笑っていた。周りのみんなが笑っていた。

ちょっとしたお祭り騒ぎの中で聞いてみると、彼女はこのお店で10年勤続を果たしたというのだ。〈Celebration〉が聴こえるようだった。

I think you wanna come over
Yeah, heard it through the grapevine

こっちへ来てよ
あんたのことは聞いてたから

Are you drunk or you sober?
Think about it
Doesn’t matter

酔ってるとかしらふとか
そんなことは
どうでもいい

And if it makes you feel good then I say
do it
I don’t know what you’re waiting for

気分が乗ったなら始めて
待ってることなんてないわ

マドンナがそう優しく歌いかけている。ビデオクリップでは性的な誘いのように踊っているけれど、彼女はたいていの曲をそんな風に表現するので、そこに目をくらまされると、ちょっと違うことになるけれど。

Boy you got a reputation
but you’re gonna have to prove it

あんたは評判ね
だけどそれを証明しなけりゃね

手を替え品を替え、言い方を替え、忍耐強く男の子を引き立てようとする女の子の長セリフ。

だが、この少し気弱な男の子は彼女自身だ。トップアーティストになり、磔になり、絶壁に立ち、もうこれ以上飛べないのではないかと立ちすくむ自分を、「あともう少し」と励ます。

And if it makes you feel good then I say
do it/I don’t know what you’re waiting for

気分が乗ったなら始めて
待ってることなんてないわ

どんな小さな一歩でも、踏み出せればそれは奇跡だ。どんな小さなことも、なし遂げられればもっと奇跡だ。だからそんなときにはいつでも、Celebration(お祝い)があっていい、マドンナはそう歌っているのだった。

勤続10年の表彰

照れくさそうにしていた女性店員が、「待って、待って」と言いながら、胸を押さえて短い挨拶をしていた。ゆっくり話すひと言ひと言に、小さな歓声や口笛が鳴った。

〈New Seasons Market〉の女性店員の手にあったのは、表彰状ではなく感謝状だった。誰からのThank you? 仲間からの、お客からの、お店からの、一歩踏み出したい、何かをやり遂げたいと思っているみんなからの、Thank youだった。

Photo/MariY 2017