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緑あふれる自由都市ポートランドへ

緑あふれる自由都市ポートランド

百木俊乃 イカロス出版

▶著者の百木俊乃さんは東京目黒生まれ。多摩美大卒業後、広告代理店、メーカー宣伝部のコピーライターと職を経て、渡米した。パートナーとともにニューヨークで企画事務所を設立した。帰国して広告企画事務所の運営をしていたが、2013年、長く関わりがあったポートランドに再移住した。ライター、コピーライターをしながら、ポートランドやオレゴンに関するブログ365Portland.comを運営し、2016年7月に初版を上梓。本書はアップデートした最新版で、加筆や差し替えの上、2018年8月に出版された。

▶ポートランドは見所、語り所が多い都市なのだが、これを描き切ろうとするとカタログ的になりがちだ。百木さんはダウンタウンに住み、仕事と生活を通してこの町を自分の中に取り込んでいった。「本書は私個人の目を通して見たポートランドであり、これがすべてではない。訪れる方々にはご自身の感性で、ぜひ独自の発見をしてほしいと思う」とある通り、これは百木さんの発見の書であり、読者を自身の発見に誘う書だ。

▶構成は「Neighborhood」「Cultures」「Outdoor & Nature」の3つ。「Neighborhood」の副題は(ポートランドの「小さな界隈」)とある。Neighborhoodは固く訳せば「地区」、柔らかくいけば「近所」となる。ボクもNeighbourhoodの適訳を求めてずいぶん思案したことがあり、やはり「界隈」としたことを思い出す。だが百木さんは「小さな界隈」と言い切り、さらにイメージを際立たせていている。町を掴み取るとはこういうことだ。

▶ポートランドにNeighbourhoodは100くらいあるけれど、百木さんは旅行者に馴染みの12カ所を紹介している。まず「小さな界隈」を百木流に案内し、界隈にあるショップやレストランなどを個別に案内している。淡々とした表現だけど温かさと生気に満ちて、ボクがよく知っているお店についても、ああそうだったのか、と小さな発見に誘ってくれたりする。

▶ポートランドはローカリティと小規模を大事にする町で、「Cultures」の章では、ビールやワインやコーヒー、ファーム、音楽、イベント、ハンドクラフトなどが、愛しきものを語るように語られている。「Zine」という小冊子文化の項では、低予算旅行者のための低予算誌である「Zinester’s Guide to Portland」の充実ぶりを取り上げ「内容的にはイーストサイドが充実しており、ポートランドのガイド本としてはもっともおすすめできる(本書以外では!)」と、めずらしくお茶目な書き方もあって微笑ましい。

▶「Outdoor & Nature」に割いたページ数は多くないが、百木さんのブログの終わり辺りでは、ポートランドからオレゴン・コーストやセントラル・オレゴンへと足をのばす記事が多くなっていたので、淡々とした書き方なのに染み入るような文章である。たとえばCannon Beachの魅力について、「北端に広がるエコラ・ステイト・パークからの眺めを外しては語れない」と書いてある。たしかにそうなのだが、Cannon Beachの紹介でEcola State Parkを第一に取り上げる案内書はあまり見かけない。ここからの景色は湾曲する海岸線に波が押し寄せ、向こうには山が列なっているもので、日本人が等しく望む海岸の風景だからだろうか。百木さんはここでご自身のいのちと向き合っていたのだろうか。

 

NozomN

登場元〈365 Portland〉

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