先に「戒名は」で登場の俳人。いさぎよさ、覚悟、が必要になったときのサプリメントとして服用したい。医薬部外品。
カチョーを美しく生きるコツは「覚悟」を持つことである。男の気骨(きこつ)を教えてくれる書には、城山三郎が石田礼助の生涯を描いた『粗にして野だが卑ではない』、小島直記の『一燈を提げた男たち』などの好著があるが、覚悟となれば鈴木真砂女、である。
夫の蒸発、旅館女将であった姉の急死、老舗(しにせ)旅館を守るための義兄との再婚、海軍士官との運命的な恋、不倫、出奔などの激浪に洗われながら、なお珠玉のように結実していった覚悟が凝縮してタウリン一〇〇〇㎎。〈夫運なき秋袷(あきあわせ)着たりけり〉〈羅(うすもの)や人悲します恋をして〉〈あるときは舟より高き卯浪かな〉〈鴨引くや人生うしろふりむくな〉と折々の覚悟を一七文字にして、二〇〇三年三月、九六歳で死去。〈手術台へ俎上(まないた)の鯉として涼し〉〈来てみれば花野の果ては海なりし〉。句中にある「卯浪」は真砂女が銀座一丁目に開いた小料理屋〈卯波〉の名ともなった。
真砂女の覚悟に深入りするには句集が一番。『人悲します恋をして』(角川文庫)、『紫木蓮句集』(角川書店)も良いが、『鈴木真砂女全句集』がたっぷり堪能できる。かなり昔のことだが日経新聞に連載された瀬戸内寂聴の『いよよ華やぐ』(新潮文庫、単行本もあり)の主人公は鈴木真砂女がモデル。ちなみに「いよよ華やぐ」は、覚悟の先輩岡本かの子の「年々にわが悲しみは深くしていよよ華やぐいのちなりけり」から取ったのかも。