草稿ノート草稿ノート

ニューシーズンズ(幻想都市紀行4)

 〈Wild Friends〉のサイトに、〈B-Corp〉認定に挑む宣言がある。

エリカと私は、数年前に地元の食料品チェーン、そして最初の顧客であるニューシーズンズマーケットが、最初の〈B-Corp〉認定食料品店になったときに、初めて〈B-Corp〉に興味を持ちました。「経営と事業のすべてのレベルにミッションを注入する」というアイデアに触発され、私たちは〈B-Corp〉への道を歩み始めました。

 〈B-Corp〉のBとは、Benefit(利益)のB。で〈B-Corp〉とは、私益だけでなく、公益を追求する会社を認証する制度だ。「良い会社」の世界基準のひとつで、現在では世界60ヵ国、2,600社に広がっている。

 日本の〈B-Corp〉認証企業は数少ないが、2020年5月にダノンジャパンが、日本の食品業界で初めて得た。

 認証を希望する企業は〈B Lab〉に調査票を提出し、5つのカテゴリーで総合200点のうち80点以上をクリアした上で、監査を受けて認証される。ちなみにダノンジャパンは、総合点数が85.3点だった。

 〈B Lab〉とは〈B-Corp〉を認証する非営利団体で、2006年に米国ペンシルバニア州で発足した。環境・社会に利益をもたらし、透明性や説明責任などの基準を満たすことが認証条件になる。ガバナンス、従業員、コミュニティ、環境、カスタマーの5つの分野で、総合点の40%以上を獲得することが必要で、これをクリアするには相当な準備と実践が必要だという。

 それでも〈B-Corp〉認証を獲得する利点は大きい。第1に、「良い会社」を数値化、可視化することによって、経営側が「良い会社」になろうとする努力や姿勢が従業員に伝わる。改善することで従業員の満足度がアップする。第2に、対外的に「良い会社」であることがアピールでき、信頼できるブランド構築につながる。第3に、同じビジョンや価値観をもった人や組織との協業や共創につながる。

 2013年に、食料品店として世界で初めて〈B-Corp〉認証を取得した〈NewSeasons〉がその好例だ。〈NewSeasons〉は発祥の地であるポートランドで、食料品店としてのユニークな「生き方」を示すことで、顧客を単なる購買者にするだけではなく、「良い生き方」に参加させることに成功した。またその生き方に共感する地元メーカーを引きつけ、生産の目標を示すことにもなった。

 ポートランドの学生アパートで小さく創業した〈Wild Friends〉も、地元の食料品店〈NewSeasons〉に出会い、触発され、〈B-Corp〉認証の取得に挑戦することになった。それは〈シャーク・タンク〉への挑戦よりもはるかに困難で、しかし意味のあることだったのではないだろうか。2018年、彼女たちはついに〈B-Corp〉認証を取得する。初回としては上出来の88点だった。

 〈B-Corp〉は3年に1度の認証更新があり、認証企業は「良い会社」への認識を深耕し、実践を繰り返して体質を強化する。〈NewSeasons〉の〈B-Corp〉評価は、現在102.2点に達している。

 〈B-Corp〉は、同じ世界標準である〈オーガニック〉認証や〈フェアトレード〉認証に比べ、広がりが遅い。認証条件が厳しい上に、認証効果が従業員満足、社会満足などに内在化するものが多く、表面化しにくいことなどが原因だと言われる。それだけに、この認証に挑む企業の志の高さが窺えるのだ。

 〈B-Corp〉には「相互依存宣言」というのがあり、こんな言葉で始まる。

「私たちは、ビジネスを善のための力として使う世界経済を構想しています」
"We envision a global economy that uses business as a force for good.”

〈幻想都市紀行3「オネスト・ティ」〉からの続きです

2020/12/20 NozomN